2007-11-17

天国



夜バスルームの電気を消して
ロウソクをたくさん灯して
暖かい湯船に足をすべり入れる

窓から見る外は真っ暗で
月も星も何も見えない
木々の陰がサワサワ動いてる

水面にはロウソクの炎が映って
生きてるみたいに呼吸をして
震えながらユラユラと漂ってる

私の体はふっくら暖かくなり
腕を伸ばし足を伸ばして
ロウソクの影と波間に身を委ねる

静かな光の空間は時間を止める
暖かい蒸気を立ち込めて
ああ すべてに解放されて行く

すべては遠ざかり すべては過去
私はもう人間たちの世から遠くにいて
行くのだ 何も心配のない平穏という世界に

なんて静かで暖かく平穏なのだろう
苦しみもなく 痛みもなく 解放され
だゆっくりと任せていればいいだけ

下の世界では娘も息子も母もみんな
困ったり悩んだりして 毎日は続いてる
それは 私にはもう見えない遥か遠くの世界

もう心配しなくてもいい 終わったのだ
大丈夫 みんなしっかりやっていけるから
もういいんだから 任せて大丈夫なんだから

私はいま天国に行くのだろう
泣いて怒って叫んでいた娘が ほら
見なくたって 満面の笑顔で走っているのがわかる

天国はこんなところなんだろう
額から流れる汗と涙が一緒っくたになり
湯船につつっと溶けてロウソクの影と揺れる

愛した人も 気まずくなった友人も
そのまま消えない 人の世は永遠に続く
自分もかつて あそこの一部だったんだ