2010-01-22

悲しみの作られ方

ひとつ ひとつ 
紡ぐようにして集めていく

あれも これも
選びとるようにして摘み取っていく

精巧に吟味された悲しみは
ふるいにかけられ
より吟味され
体の中に取りこまれ
反芻しながら
ずっしりとした身になる

私は鉛の体になり首をたれ
真剣辛い血が沸騰して流れ出て
ドクリドクリと波を打ちながら警鐘を鳴らす

溶岩色の血が津波となって
巡る巡るぐるぐると
ぐわらるうん ぐわらるうん ぐわらるうん ぐわらるうん

「ねえ どうしてよ、ひどいじゃないの!」
最後の力を振り絞って訴える
「いいかげんにしろよ!」
あなたのとどめが私の心臓を突き刺す



あああああああああああああああああああああああああああああああ

2009-10-09

それでもどうしてですか?

ストレスがギリギリのところまで来ている。
息をするのが苦しい程、胸が固まっている。
「それでも、そこまでするのは、御主人に対する愛情からですか?」
そうではない。
そうではないんだ。
そうではないとはっきり言える自分が恐ろしい。
そのことに改めて気が付いて、ハッとしている自分がいる。
これは「自分」との契約なのだ。
自分が決めたことを守ろうと必死なのだ。
守り抜こうと決めた自分の意志との戦いなのだ。
これを貫けなければ、何もかもおしまいだ。
すべての計画はオジャン。
頑なに頑なに、死守している自分の決めた道。
それでも、今日は、異常に揺れる。
このすべてを放り出しても、娘の元に帰ろうかと、どこかで思い始めている自分。
すべてを壊して、すべての努力を無にしようかと、どこかで思い始めている自分。
息が絶え絶えだ。
細かくハアハアと息をして、この苦しみの波を越えようと喘ぐ。
なんなんだ。
どこまでこの障壁は迫り続けるのか。
反吐が出そうな中、なんとか睡眠薬を飲んで、今日は少しは眠れるだろうか。

2009-03-22

右と左

私は真ん中にいる。娘は右で 夫は左。
娘は完全に右の窓の方を向いている。
私からは、彼女が外の景色を見てるのか、それとも目をつぶっているのかもわからない。
私が外に見えたものを指さして、それについて話を始める。
「ほら、見てみて!あそこにあるのはね・・・」
私が話し出すのとほとんど同時に、
「しずかにしてくんない?うるさいんだよ。やめてよ!」
という言葉が返ってくる。遮るのが目的は有効に効果を発し、私はすぐに口をつぐむ。
夫にもタクシーの運転手にも、何を言っているのかはわからない。私と娘の言葉は日本語なのだから。それでも、言葉の周りにひっついたモヤモヤとした空気が、何やら毒気のある匂いを放ち、言葉の奥に潜む感情を勘ぐらせてしまう。
「ダイジョーブ?」
夫がノースリーブから出た私の左腕をさすりながら聞く。
「うん・・・」
私は自分が持つ言葉の中で最も短いものを選んで即答する。そして、悪いと思いながら主人に愛想のない態度を取り、無機質の自分を装う。眼はまっすぐとタクシーのフロントグラスを見つめ、右も左も向かないように努める。娘は右の窓の方にしっかりと上体を向けているのだから、私のことなど見ているわけはない。それでも、私は気を使っている。娘の心の中は、半分は宙に浮いているとしても、残りの半分は私の方を向いている気がしてならない。娘は、見て見ぬふりをして私を監視している。盗むような眼をして睨んでいる。そして私と眼が合うと、さっとまるで何も知らないような振りをして無視するか、蔑むような形相になる。娘は私に向けて何も訴えてはいない。ただ、感じたままを表現しているだけだ。
夫が静寂を持て余したように、私の腕をまたさすり出す。その手は、私のジーンズを穿いた太ももにも移動する。それは無言の行動だとしても、そこには微かな音がして、私はその音に卒倒しそうになる程動揺する。そして、その音を消すために時折小さく咳払いをして姿勢を正す。娘は相変わらず右の窓の外を見るように座っている。
「やめて」と夫には言えない。それは夫にとって日常茶飯事の行動であり、私といる時はいつでもやっていることなのだから、それを突然今日に限って「やめてと言ったところで、その理屈をそう簡単に理解できるはずはない。「やめて」は、私に拒否されたというひとつの証拠として夫に強烈に焼印され、おびただしい誤解と妄想で空回りを始める。そして、このタクシーの中には、またもう一つの余計で面倒くさいモヤモヤした黒雲が湧き始める。
私には、ここで、右と左のどちらにもわかるような理屈を徹した講義を始める元気は全く持ちあわせていない。そんなことを考えただけで、1年分の疲れが押し寄せてくる。
私は、右と左に対して同時に心を耳ダンボにしながら、誰にも聞こえないように「あーあ」と溜まったドロドロを自分の中に吐き出す。ほんの30分のタクシーが、居心地の悪い永遠になる。









2009-03-19

半月

昨日の月は半月だった
真っ二つに割れた月?
だけど、本当は半分に割れてなんかいない
ただ、半分が見えないだけ
陽に当たる半分と暗闇にとどまる半分
よく見れば、どちらも見える
だけど、そのどちらも見ようとする人なんていない
明るく輝く部分しか人は見ない

残りの暗闇部分なんてほしくない

今日から、だんだん半月はもっと欠けていく
細い月を目指し暗闇の部分が増えていく

どんどん自分を隠し
そしてある日、ふっと見えなくなる
どこにもいなくなったように
すべてを閉ざした心になって
微かに浮かぶ稜線を幻のようにして


だけど、また次の日ほんの少し顔を見せる
なんで隠れたままでいられないの
世間に未練でもあるの
ああ、そうやってまった行ったり来たり
私の真似をしてるんだ






2009-03-18

黒ずんだ顔

朝、目が覚めて泣いていた。
ティッシュを引っぱり出して拭うと黒い。
マスカラか、アイライナーだ。
思い出した。
昨日の夜、寝る前に一声叫んだんだった。
「ああ、今日は顔を洗う元気さえない!」と。
そう言って倒れるように落ちたベッドで、私は朝まで寝た。
一度も目を覚まさなかった。
疲れていたのだろうか。
いつもは眠れないで困っているのに。
今朝の顔を鏡で見たくない。
疲れきった昨日を引きずったままの顔。
明るい朝にふさわしくない影を残した黒ずんだ顔。


2009-03-17

自分勝手

「時々ね 
 すごく自分勝手な人間になっちゃおうかなと 思ったりしてみる」
「してみる?」
「あなたのことも 考えずに 好きなことを思いっきりしてみたり
 そんなこと できるかなとか・・・思ったりしてみるんだ」
「何言ってんの?
 今だって十分過ぎるくらい自分勝手なことしてるじゃん」
「そうか あなたにはそう見えるんだね」
「そうだよ すごい自分勝手だよ」
「私は 毎日常にあなたのことで 自分ががんじがらめになってる」
「なんでよ 一緒に住んでないし 私のことなんて なんにもしてくれてないじゃん」
「いつも心配して どうしていいかわからいくらい あなたのこと考えてる」
「そんなこと しないでよ なんもならないから」
「でも そうしちゃう どうしても いつもいつも」
「うっさいんだよ
 だったら 前の生活 かえしてよ!
 自分勝手なことばっかりしないでよ!
 私の生活 ママのせいで めちゃめちゃじゃん!」




希望

すべての道が塞がれたと思っても
必ずどこかに抜け道はある

何も見えなくなったと思っても
必ず微かに見えるものがある

もうダメだと思う前に
静かに呼吸をしてとどまってみる

爆発する前に
目を瞑って空っぽになってみる

人生はやり直しがきくんだ
山に登る道はいくらでもあるんだ
それがどんなに遠回りだとしても
迷子になったように見えても
間違った道を歩いているような気がしても
そこへ行こうと思っている限り
いつか
自分の足で
そこへ辿りつくことができるんだ


2009-03-12

母として


あたなが ほしくて いつも 願ってた
あなたが この世に 生まれますようにと

あなたに 会いたくて いつも 思ってた
あなたが 私の元に 生まれますようにと

奇跡は 起こり 私は あなたを 授かった
死ぬほどの気持ちで願った思いが 本当に届いた

ありがとうなんて 言葉じゃ 言い表せない
あなたは 輝いて 私に まぶしい光を与えた

朽ちかけていた 私に 息吹を吹き込み
あなたは 私の手を引き 生きることを教えた

珠の命が 私の行く手の 導きだった
あなたの笑い声が 私の命の糧だった

私の人生が また始まった
消えそうな火が また よみがえった



それは ほんの つかの間の 幻想だったのだろうか
あなたは ある日 逃げるように 雲隠れをした

探せば探すほど 遠くなり 離れていく
私は また 道に迷い 自分がどこにいるのかさえ わからなくなった



あなたを 授かったのを知った日のこと
あなたが 生まれた日のこと
一緒に 駈けて競争したこと
一緒に おなかが痛くなるまで笑ったこと
すべての 思い出が 私を苦しめる
楽しかったことが 一丸となって 私を苦しめる

ああ 
あなたに 会いたい
もう一度 この手に 
あなたを 抱きしめたい
あなたの 命を
抱きしめたい




2009-03-11

「未来」に向かってもがく「今」が「過去」になる


「過去」になってしまったことは きれいに見える

ずっと向こうに行ってしまった時間は 楽しそうに見える

どんなに苦しくて 泣いていた日々も
どんなに喘いで お先真っ暗だった日々も
「今」よりも ずっとよかった日々だったかのように
セピア色に輝いて 波のようによせる

そんな嘘に騙されている自分が おかしい
そんな幻想に浸っている自分が あほらしい
こんなに心が痛いなんて あの頃は感じなかったとか
こんなに翻弄されて行き場がないなんて あの頃は思わなかったとか
あの頃の苦しみは 実は「今」以上だったかもしれないくせに
喉元を過ぎた痛みを 忘れかけている自分がいる

いつだって 「過去」は 美しく 静かに凪いで
自分が乗り越えてきた汗と涙なんて どこかにかすんで
あんなのへのかっぱだったみたいに
ひょい と飛び越えてきたみたいに
死にそうになってのたうちまわっていたことを忘れ
いつでも 最悪の時は 「今」目の前に存在する

「今」が去って「過去」になる
「今」が知らないうちに「過去」になる

「今」の 半分くじけかけている自分と対面し 
いたたまれなくなって「過去」をふりかえる
その「過去」には もう半分くじけかけた自分はいなくて
半分くじけかけている自分は いつも「今」ここにいる

乗り越えた自分は 「いつか」のヒーロー
「今」は戦うことさえできない泣き虫のあかんたれ
だけどまた 「いつか」のヒーローに戻れるかもしれない
まあちょっとした苦労だったけどね とカッコよくいえるかもしれない

「今」が「過去」になったとき 
この苦しみを  どんなふうに 思うのか
あんな時代もあったさと ひとまわり大きくなって
ははんと笑って懐かしむ 「いつか」がくるのかだろうか

「今」はいつもここにあって 先端をいく
これが「過去」になることも知らずに
見えない「未来」に向かって
「今」初めて見る刃(やいば)と戦い もがき続ける自分がいる

何も知らない「未来」の自分が 
きっとどこかで 「今」の自分を見る
「過去」になった「今」を見る
「今」は見れない「未来」の自分

それは どんな色をしているのだろうか
遠くに浮かぶ まだ届かないそこにいる自分に 
「今」すぐ会って 
ああ 大丈夫だよ
なにも心配することはないんだよと
優しく包まれて 言われたい






語る言葉をなくし

私のなかにあるすべての楽しいことが
あなたの悲しみになる
たとえ上辺の喜びであっても
それはあなたにとって憎しみであり
許されるものではない
私は笑ってはならず
楽しんではならない
私の微笑みは存在する権利を持たず
現れたとたん針の矢の攻撃を受ける
それは「じゃけんじゃないよ!」を造り出す元凶でしかない
私は語る言葉をなくし
沈みきって落胆し
心を閉ざしうずくまる
それが何の進展ももたらさないことを知っていても
私はそれ以上のなす術を知らない