いつの間にか夜になっていて、雨が降り出していたことさえ気が付かなかった。
静かにしとしとと外の世界は濡れていだんだ。
そういえば、トントントン…という規則正しい音が聞こえていた。
屋根から落ちる雨だれの音だったのだ、と今頃思う。
朝出した猫を家の中に入れようと思って玄関のドアを開けたのだけど、いくら呼んでも返事をしない。ふとこの暗い雨の中のどこかでさまよっている猫を思い、自分の姿を重ねた。
今夜は静かに過ぎていく。
まるで世の中から忘れられたような空間がここにある。
風が通り過ぎるように 私もこの世を通り過ぎる。誰かに出会い、何かをシェアして、泣いたり笑ったり怒ったりしながら、流れる時にさえ気が付かない。そして時々フッとわれに返り、ひとり空を見上げ、自分の来た道がすべてこの空の下にあったことを思う。どこにいても、私は私だった。この先、どこをどう通ってどこに行くのだろう。流れる風に身を任せ、髪をたなびかせ、目を瞑る。耳を澄ませると、感じるように聞こえてくる魂の叫び。ああ、私が風になっていく・・・。