2007-10-02

白昼夢


ああなんと馬鹿げている
大丈夫だと思っていたのに、どこかの陰に隠れていて
ふとした拍子に現れた
いたたまれなくなって、声をあげて咽(むせ)ぶ

仕組まれたトラップを踏んだのか
たぐり寄せれば寄せるほど、嵌って落ちていく罠
大丈夫な振りをしてただけ
本当はこんなに泣きたい自分を我慢してたんだ

自分で作り出した白昼夢
日本の財布がないことに気づき、パニックになった
心臓がドキドキ苦しくなる
急いでカード会社に国際電話をして調べる

ああ誰も使っていなかった
ホンのつかの間の安堵は、次のステップへの不安
じゃあどこだ、どこにあるんだ
庭の芝生を刈っている音は確か昨日聞こえたはずだ

馬鹿らしい、また盗難だなんて
鍵は全て変えたんだから、そんな訳はない
ミステリー映画の見過ぎ
息が苦しくなって、誰かの気配を感じ殺気立つ

猫だ、ミャーという声がする
誰も入れるはずはないんだから、もっと気を確かに
あの引き出し、まだ見てない
そうだ、あそこかもしれない・・・急げ、走れ

あった!ああ・・・よかった
ひとりで家中を走り回り、たどり着いた引き出しの前
財布の中身をとりあえず確認
すべてもとのままだ、心配することはない

財布の奥に誰かがいる
娘の写真が、どうしてこんな時に私に微笑んでる
髪をなびかせ、こっちを向いて
輝く笑顔で、私に眩しすぎる光となってそこにいる

声をあげて泣いた
美しすぎる娘を見て、堪らなくなって泣いた
届かない光がここにある
どんなに手を伸ばしても、ここにあるのは幻影

平静な振りをして
超越した物わかりのいい大人になったつもりだったのに
こんな落とし穴で我に帰る
私の命よりも大事なのものが・・・私にはある

二枚入ってた同じ写真
一枚をいつも持って歩くキーホールダーに入れた
ママは毎日これを持ってるからね
どこにいても、いつもあなたと一緒だから・・・

からだ中の力が抜ける
山になったティッシュをゴミ箱に捨てながら
寝息を立てている娘を想う
あなたを愛している。世の中の誰よりも。誰が何と言おうと。