たまたま主人のイーサンが電話に出たが、少し長い電話だったから、いったい何の電話なのか気になって聞き耳を立てていた。実は、また昔のガールフレンドからの電話だったら、ちょっと怒ってやろうというつもりだった。
「妻に聞いてみますが・・・」という言葉が何度も出ていたので、私に関わりのあることだと思ったが、相手はどうやら昔のガールフレンドではないようだ。
電話が終わり、イーサンは少し神妙な顔をして私に尋ねた。
「ねえ、日本円をたくさん持ってた?」
私は、いったい急に何の質問かと思った。唐突に聞かれても、そんな質問の答えはいつも用意してる類のものじゃない。日本円はそれなりには持っているが、それは緊急の時用マネーでイーサンには内緒だった。誰にも見つからないところに置いてあるし、もちろんイーサンには絶対に知らせたくなかったから、
「え・・・持ってないわよ。ど、どうして?」
と少しシドロモドロに言った。
「もちろん僕も現金なんてものはさ、ドルも円も、いつでもほとんど持っていないから、君が持ってたのかなと思ってね。今、ニコルソンさんから電話で、息子のパット、ほら、いつもうちの芝を刈ってくれたり、犬の世話をしてくれてるパットだよ、彼が学校で日本のお金を売りさばいて捕まったらしい。そのお金は、うちから盗んだらしいんだよ。それも10万円以上だっていうから、もしかしたら君のお金かと思って。」
私は、すぐには何のことか飲み込めなかった。ゆっくりと夫の言葉を反芻しながら、事の事実を大まかにつかみ、ああ事件が起きたのだと思った。でも、パットがまさか私のお金を?そんなわけはない。とっさに 、
「そうだわ、マリーなら、日本円を持ってたと思うわ。確か・・・お年玉とか、そういうの、日本からこっちに来るとき、おばあちゃんとか、お父さんとかからもらってたみたいだから。」
と焦って言った。もしも、私のお金だったらどうやって辻褄を合わせようかと考えながら。
「そうか、じゃあ聞いてみたほうがいいね。」
「今、聞いて来るわ。」
と言いながら、私はマリーの部屋へ行った。
マリーは、朝から調子が悪いと言って、金曜なのに学校へ行かずベッドでゴロゴロしていた。
「ねえ、マリー、あなた日本円持ってたわよねえ?日本から持ってきてるでしょう?パパからもらったりしたやつ。どこにあるかしら。それ、ちゃんとあるか調べてくれる?」
「なあに。あるよぉ・・・でも何でぇ?」
不意に何でそんなことを聞くのか理解できないらしいかったけれど、マリーはゆっくりと起き上がると、自分ののクロゼットのチェストから和紙でできたお年玉用のピンクの封筒を取り出した。
「はい、これ。・・・あれっ?何も入ってないよ!」
マリーが大事にしていたお年玉のお金は見事になくなっていた。マリーのお金だったんだ・・・と、私は少しホッとして、空の封筒をマリーの手から取り、イーサンの所に持って行った。
「見て!空っぽになってるわ!」


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